ITエンジニアにとって、問題解決力はとても重要です。
その中でも特に重要なのが「イシュー」です。イシューは「本当に取り組むべき課題」のことです。
イシューからはじめることで得られる効果は多岐にわたります。プロジェクト成果の最大化、チームのモチベーション向上、リスク回避など、システムエンジニアが直面する課題に対して有効な解決策をたてることができます。
そこで本記事では、システムエンジニアにとって必要不可欠な「イシューからはじめること(問題を解決する力)」について、その効果や今後の展望について解説します。
具体的には、東大卒の元マッキンゼーの安宅和人(あたかかずと)さんの著書「イシューからはじめよ――知的生産のシンプルな本質」 が非常に有益なので紹介します。
この記事を通じて、システムエンジニアの方々が「イシューからはじめること」を実践し、プロジェクトを成功に導くためのヒントを得ることを願っています。
【結論】「問題を解く」以前にそもそもの「問題を見極める」ことが重要
顧客にとってITエンジニアはシステムのプロです。顧客から出された要件をただただ受ける(問題を解く)だけでは不十分で、その前段で顧客に寄り添って考える(問題を見極める)から取り組むことが求められます。
正しく問題を見極めることが出来ることによって大きな成果をあげて価値提供できます。
特にプロジェクトマネージャーはプロジェクトをリードする役割なので、チームを正しい方向に引っ張っていけるように「イシューからはじめよ」で問題解決スキルを向上させることをおすすめします。
「イシューからはじめよ」の紹介
「イシューからはじめよ」は、エリート中のエリートである安宅和人さんが、多くの企業の経営改革に携わって培った問題解決のノウハウをまとめた書籍です。
著者の紹介
著者の安宅和人さんは、東京大学→マッキンゼー入社→イェール大学→マッキンゼー復帰→ヤフーCSO、慶應義塾大学教授、Zホールディングス、データサイエンティスト協会理事
と、ものすごいキャリアを持っています。
最近では著書「シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成」も話題になりました。
イシューとは
イシューとは課題や問題、論じるべきテーマのことを言います。ビジネスシーンでは、自分が直面している状況や目標に対して最も重要なイシューを見つけ出し、それに対する答えや提案を作ることが求められます。
イシューは「アジェンダ」と似ていますが、「アジェンダ」は実現させたい課題や検討予定の議題という意味で使われます。「イシュー」には根本的・本質的な論点という意味合いが含まれます。
「イシューからはじめよ」の概要
本書は、イシュー(問題)を発見し、その根本的な原因や問題点を理解するための方法を解説しています。
本書の著者である安宅氏は、問題解決には問題の本質を探ることが必要であり、そのためには問題を明確に理解することが重要であると考えています。
本書では、イシューを発見するための方法やイシューに対するアプローチの基本的な考え方を解説しています。
「イシューからはじめよ」がITエンジニアに役立つ理由
ITエンジニアにとって「イシューからはじめよ」は非常に役立つ書籍です。理由を3つ挙げます。
問題解決のスキルを磨くことができる
ITエンジニアの仕事は常に問題に直面していて、問題解決は簡単なことではありません。
ですが、問題解決について専門的に学んだことがあるITエンジニアは少ないと思います。私は大手Sierに勤めていますが、問題解決は必須スキルなのに研修などで学ぶ機会はありませんでした。
そこで今回紹介する「イシューからはじめよ」がおすすめです。
本書では、問題解決に必要なスキルやアプローチが実践的に解説されています。
問題を整理し、課題を明確にすることができる
システムエンジニアは、プロジェクトにおける問題や課題を把握して解決策を提案することが求められます。
本書では、問題を整理し、課題を明確にするための具体的な手法が解説されています。これらの手法を活用することでより効率的かつ効果的なプロジェクト運営を実現できます。
事例から学ぶことができる
本書には、実際の企業でのイシュー解決の事例が紹介されています。ITエンジニアは、これらの成功事例を参考にしながら自分のプロジェクトにおける問題解決に役立てることができます。
「イシューからはじめよ」で私が特に重要と思ったポイント
本書の前半に「問題を解く」より、そもそもの「問題を見極める」という主旨の解説があるのですが、これは目から鱗でした。
私が勤務するSierはシステム開発や運用を「受託する」のがメイン事業であるため「問題を解く」が重要視されてきたのか「問題を見極める」ことから仕事に入る文化が薄いように感じます。
本来Sierはシステムのプロなので、顧客から出された要件を受ける(問題を解く)だけでは不十分で、その前段で顧客に寄り添って考える(問題を見極める)から取り組むべきです。
そうすることで大きく成果をあげて価値提供できます。
私が特に重要だと思ったポイントを3つ紹介します。紹介したい内容は全てこの本の前半の内容です。
バリューのある仕事とは何か
イシューとは、「何に答えを出すべきなのか」についてブレずに活動することがカギとのことです。
この本で定義されている生産性は、以下の公式で定義されています。
生産性 = アウトプット ÷ インプット = 成果 ÷ 投下した労力・時間
ですので、生産性を高めるためには、労力・時間を削るか、同じ労力・時間で多くのアウトプットを出すということになります。
この本では、生産性が高い意味のある仕事を「バリューのある仕事」と呼んでいます。
安宅さんはバリューは「イシュー度」「解の質」の2軸から成り立っていると述べています。
一般的に「解の質」に注目されがちですが、このマトリクスのとおり「イシュー度」が低ければバリューは低くなります。
確かに、的外れな方向にがんばって働いても、貢献度は低いですよね。
問題解決を担うITエンジニアは、このマトリクスをいつでも頭に入れておく必要があります。
犬の道(「バリューのある仕事とは」の続き)
この内容がこの本で一番大切なところだと思います。
ヨコ軸の「イシュー度」の低い問題にどれだけたくさん取り組んでも最終的なバリューは上がらないので「努力があれば報われる」というやり方では右上のバリューの高い領域には届きません。
この「がむしゃらに働いて右上に行こうとすること」を安宅さんは「犬の道」と呼んでいて、やってはいけないことだと注意しています。
どんなに解の質が高くても、イシュー度が低ければバリューのある成果にたどりつかないためです。
大切なのは「①イシューの見極め」「②解の徹底した磨き込み」というアプローチです。正しくイシューが見極められていたら、解の質を高めることでバリューのある成果にたどりつけます。
「解く」前に「見極める」
プロジェクトではチームで「これは何のためにやるのか」という意思統一をして立ち返る場所をつくっておくことが重要です。
これはプロジェクトの途中でも同じで、「そもそも何に答えを出すプロジェクトだったのか」を整理して意思を統一します。
イシューを見極めるためには
- 実際にインパクトがあるか
- 説得力あるかたちで検証できるか
- 想定する受け手に伝えられるか
という判断をします。ここには経験と見立てる力が必要になります。
そこで相談相手がいると手っ取り早いと述べていて「老練で知恵のある人」「その課題領域に対して直接的な経験をもつ人」の知見を得ることが推奨されています。
- プロジェクトチームでの意思統一は、自チームだけでなく顧客含めて意思統一する必要があると感じた
- 相談相手は、プロジェクト計画を立てるときに体制に組み込んでおくことが理想だと気づきがあった
イシューからはじめるプロジェクト運営の実践事例
イシューから考えることで、システムエンジニアは問題を見つけて対処することができます。実際の事例を紹介します。
成功事例|イシューからのアプローチが上手くいったプロジェクト
本業での実際のお話しなので詳細は控えますが、私が勤める会社では、新規事業創出プロジェクトにおいてイシューからのアプローチの成功事例があります。
顧客からのフィードバックやエスノグラフィー(※1)をもとにイシューから見極めるアプローチを取り入れて顧客のニーズに応えるためのアクションプランを策定していました。
この結果、プロジェクト立ち上げから1年ほどで新製品を開発し、製品はその業種の市場で好評を博しそこそこ大きな成功を収めています。
※1:エスノグラフィー:ユーザーがふだんどのような環境で生活しているか、どのような考え方で製品やサービスに接しているのかといったことを現場で観察して得られた知見から仮説を構築していく手法
失敗事例|大規模プロジェクトでの炎上
大規模プロジェクトでは多くの人が関わります。そのため、イシューを特定し優先順位を付け、解決策を見つけることが難しくなります。
過去にプロジェクトメンバーの立場で大規模プロジェクトの炎上を経験したとこがありますが目も当てられない状況になりました。
このプロジェクトでは、ある顧客(大企業)の業務システムを既存の手組みシステムから業務パッケージに移行する計画でした。しかし、計画にはユーザーの意見がほとんど反映されていなかったため、さまざまな現場部門の反発を招き計画は頓挫しました。
この事例から、プロジェクトにおいてはステークホルダーが持つ問題や不満を十分に考慮する必要があることがわかります。
関わる人が多いほどイシューを見極めることが難しくなる事例です。誰のどんな問題をどの程度解決するプロジェクトなのか全ての関係者で意思統一することが理想です。
失敗事例から学ぶこと(実践的なプロジェクト運営のノウハウ)
失敗事例からは、どのような問題点があったのかを分析し、同じ失敗を繰り返さないようにすることが重要です。
例えば、大規模プロジェクトにおけるイシューからのアプローチが失敗したケースでは、プロジェクトの目的やスコープが明確でなかったため、途中で方向転換が必要になって予算や期間が大幅にオーバーして結果的にプロジェクトが頓挫しました。
このような失敗を防ぐためには、計画を立てるタイミングで問題解決のために関係者(特に実際に使う現場部門のユーザー)が協力して意見を出し合うことが必要です。
失敗事例では、計画時点でユーザーが意見を出す機会がなかったり、問題が表面化するまで気づかなかったりしたことが原因となって問題が深刻化してしまいました。
プロジェクト関係者全員が問題を共有し意見を出し合うことで、問題を早期に発見し対策を打つことができます。
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まとめ:「問題を解く」より「問題を見極める」
「正しく問題を定義できてないと、一生懸命に解いても成果は上がらない」
シンプルに考えるとその通りだと思うのですが、意外とできていないことが多いのではないでしょうか。
私自身この本を読んで、長年の仕事でのモヤモヤが晴れたような気分になりました。
一生懸命に努力することはもちろん大切なことだと思います。ですが、正しい方向に進まないと意味がないんですよね。
「犬の道」をたどらず「バリューのある仕事」ができるようにがんばりましょう!
最後まで読んでいただきありがとうございました。